フィリピン日記 20160603・本番編

_55A1107
(All photos by Kota Sugawara 菅原康太

2016年6月3日(金)

いよいよ初日を迎えた朝。
Tetaは朝8時からKarilyoと一緒に劇場入りして仕込みをしている(はず)。私はMagiting(JKの家)でMariaとKei君と待ち合わせ、教会へサンパギータの花売りを探しに。15分経ったので「もういるよ」とメッセージ。30分経ってもやってこないが、そのくらいは想定内。電話をかけてみるがつながらない。仕方ないので少しでも緊張をほぐそうとストレッチしながら待つ。

1時間くらい経った頃、Mariaから「遅れてごめんなさい!Keiと連絡がとれない」とメッセージ。私もKei君に電話を入れるがつながらない。とりあえずMariaに急いで来てと伝えるが、音沙汰無し。

結局ふたりが現れたのは10時半。約束の時間が守られないことはいくらでもあるので慣れていたが、さすがに本番当日に2時間半遅れというのは私もショックが大きくて、なかなか気持ちを立て直せなかった。とりあえず、すぐに車で教会へ行ったが、時間が遅すぎたのか花売りの影も姿も見当たらない。Kei君は「ごめんなさい、熱があって起きられなかった」と申し訳なさそう。そういう場合は電話をしなさい、と言おうかと思ったけどやめた。私は彼の教育係ではない。Mariaは本当にごめんなさいと謝りながら、遅れた分も取り戻そうとするように、教会のそばにいる女性に一生懸命、花売りのことを尋ねている。

考えてみれば私ひとりで探しに行くとか、緊急で誰かタガログ語ができる人に助けを求めればよかった、と後悔しながら、Mariaの心当たりがあるというPhilcoaのジョリビーへ向かう。こちらは時間帯が早すぎて(普通は夕方以降)やっぱり花売りの子たちはいない。でも駐車場の案内係の男性が、彼らの住まいを知っているので案内してくれるという。

彼らの集落は幹線道路に面した、ジョリビーと小道一本隔てた木立の中だった。掘っ建て小屋といっても差し支えない、ありあわせの壁とトタン屋根を乱暴に組み合わせた隙間だらけの家のまわりでは鶏と子どもが駆け回っていて、家の前では女性が裸火で煮炊きをしていた。

もともとMariaには、100ピースまとめて買う代わりに、キアポの花売りが売っている4ピース20ペソ(単価5ペソ)より少し安い単価4ペソで交渉するよう頼んであった。Mariaがタガログ語で彼らと交渉する横で、私はせいいっぱい微笑みを浮かべて突っ立っていた。しばらくしてMariaが「いま子どもたちは花を買いに行っているのでここにはいない。花が来たら花輪をつくるので午後1時には準備できると言っている」と教えてくれた。開場は5時半なので5時に来てくれればいい、子どもたちは来れそうなのかと訊くと、「たくさん連れて行くと言ってる」と言う。クッキーを用意して待っている、もしできたら影絵もぜひ見ていって欲しいと伝えた。値段の交渉はついたのかとMariaに尋ねると、大丈夫だという。Mariaが年長の女性と電話番号を交換し、午後1時に改めて電話で連絡することにして別れた。

この時点で午前11時、本番3時間前だがなんとか間に合った。助手席からMariaが心配そうに「(遅刻したことで)まだストレスを感じてますか…?」と訊くので思わず笑ってしまった。Mariaはとても素直で憎めない。

会場に着くと、まだスクリーンは吊られていなかった。今回は10枚の大型スクリーンを劇場の天井から吊り下げ、たくさんの人が内部で影絵を演じられる円形スクリーンを構成する。Karilyoは11時までしかいられない予定だったが、作業が完了していないのでどうやらまだ残って仕込みをしてくれるようだった。JKとDavidにランチ頃に打ち合わせをしたいと伝え、急に必要になった参加者へのプレゼン資料をつくる。

正午になれば吊りこみも終わって打ち合わせができると思っていたが、1時間経ってもスクリーンはステージの床にぺらんと伸びていた。仕方なく午後1時から打ち合わせをさせて欲しいと関係者全員に伝え、Ate Fe’s Kitchenで関係者分のランチをテイクアウトしてきた。

Ninyaに印刷してもらった台本を配り、楽屋で流れを最初から確認していく。1週間以上前にメールで送ってあり、10の質問以外はさほど大きな変更はなかったのだが、みんなの反応を見ているうちに不安になってきた。どう見ても今日初めて読んだという雰囲気で「この演出だと灯体が必要」だとか言っているので、またしても心が折れそうになってきた。さほど難しい指示ではないし、そもそも提案なので出来ないなら出来ないで構わないのだが、この段階で目を通してない、というのは(自分的には)あり得ない。百歩譲って読んでないのは飲み込むとしても「これでいい?」と尋ねた時に「あなたのコンセプトだから」と返されたのにはがっくり来た。

JKは「自分は会場にいるけど、ファシリテーションは夏希に任せる。ぼくはなるべく気配を消してるから」と言ってくれた。言語が不自由な中で正直ぜんぜん自信がないが、それは自分の企画なので引き受けるしかない。流れだけ確認し、仕込みを再開。もう30分ほどで開始時間。

開始15分前になると、受付の子が「参加者が来てますがどうしますか」と聞きに来た。ロビーへ行くとパヤタスの人たちが待っていた。リッカのロレッタ、ダンダン、ダンダンの母ヴィッキーさん、図書館のエルシー、ソルトの職員であるキャシーたちもいる。参加者が時間前に集まるなんてめったにないことだが、大井さんが引率してくれたおかげだろう。まだ仕込みは続いていたが特に問題ないので、よかったら少しでも涼しい劇場内で待っていてください、と声をかけていたら、今度はペピンのメンバーたちがやってきた。

今年はペピン結構設計の里見・下田・中澤と、去年まで事務所をシェアしていて『パラダイス仏生山』などペピンの企画にもよく参加してもらっている菅原康太くんがKARNABALと私の作品を観にはるばる日本から来てくれたのだった。朝から心が二回くらいポッキリ折れていたので、みんなの顔を見たら恥ずかしながら涙が出そうになった。

午後2時、開始時刻になってもACAYの人たちがやってこない。JKが「自分から(ソーシャルワーカーの)Lourraineに連絡してみようか?」と言ってくれた矢先、Lourrianeから「今日は何時に行けばいい?」とテキストメッセージが入った。いやいやいやいや!って思ったけど、「◯時に来てね」と一度伝えてその時間通りに来るなんて、私だけの常識に過ぎないのだった。猛省しつつ、JKにすぐ来るよう連絡してもらう。施設はすぐそばなので女の子たちは幸いすぐにやってきた。男の子たちが集まるのを待って午後2時30分、ようやく開演。

今回は戯曲上「Communities」「Local」「Artists」という3つの登場人物(という名のコミュニティ)を設定していた。が結局、Joseph、Joelle、Johnに紹介をお願いしていた都市生活者たちはやってこなかった。でも彼らが来なかったということ自体、とても面白いと思う。ちなみにKalayaan Collagesの学生たちでやってきたのは、ミゲルとその友達だけだった。「やるやるー!」「行くー!」とか言っても来ない、というのは普通なんだな、と改めて思った。ちなみに彼らを紹介してくれたConは、夫と3歳の子どもと一緒に来て参加してくれた。

まずはスライドで「SOMATOとは何か」「プロジェクトについて」「今日やること」を説明。特に走馬灯については、死ぬ前に見るフラッシュバックであることを伝えつつ、今日は未来につくりだしたい瞬間のイメージを影絵にしていくこと、それがいずれは参加者たちの走馬灯になることを伝えた。この伝え方はいろいろなコミュニティに出かけて行く先々でプレゼンを繰り返してきて、一番スムーズな感じがしていた。

またもうひとつ日本の思想として「一休(IKKYU)」を紹介した。ワークショップではなくシェアリングなのだ、だから今日はworkやlearnは忘れて皆さんの生活のブレイクタイムのつもりでコーヒーを飲みながらお互いのイメージをシェアして下さい、と話した。

その後はAninoのTetaと、飛び入りでヘルプに入ってくれたHazelの二人による実演。即興のDibaynの演奏にあわせながら、幻想的でアーティスティックな影絵。教育番組とか子ども劇団で演じられるような影絵とはだいぶ違う表現。その表現の幅や自由さを、参加者たちが感じ取ってくれていたらいいけど。

ここからの流れは、戯曲を一応書いたのでここにもアップしておく。

SOMATO_scripts-04.pdf

まず複数のコミュニティの人が交じり合うように8のグループに分ける(最大10)。影絵づくりは「SELF-P」(self-puppet)からスタート。Aninoのワークショップのプログラムから引用したもので、たった今の自分自身を表現する形を影絵のパペットとしてつくるもの。グループメンバーにはお互いの年齢、職業、背景などは話さず名前だけ、SELF-Pを作りそれを通して自己紹介をする。ACAYに配慮したルールだが、むしろよかったと思う。

_55A0978

Aninoのワークショップでも感じたことだが、みんな絵の描き込みが細かすぎて、影絵に切り抜こうとするとすごく大変。おかげでTetaやHazel、あげくにKei君やMariaまで参加者の影絵づくりのサポート(主にカッターでの切り抜き作業)に駆り出され、大忙しだった。西尾さんやペピンの中澤・下田も参加してくれていたのだが、彼らはちゃんと切り抜きやすい形をつくっていた。

自己紹介を兼ねて軽く影絵の練習をしてもらい、次は10の質問へ進む。用紙を配って意図を説明する。質問は英語で書かれているが、日本語、タガログ語に訳して音読した。

_55A1050

***

–10 questions about your future / 未来に関する 10 の質問–

Your answers are things you will see in your SOMATO one day.
これはどれも、あなたがいつか走馬灯で見ることになるものです。
You don’t have to answer all of these questions, but please try to answer 5 questions at least so that you can imagine your future more specifically.
すべての質問に答えなくても構いませんが、未来をより具体的に思い描くため、最低でも 5 つ以上答えてみてください。

1. What would your workspace look like in your future?
未来のあなたはどんなところで働いている?

2. What would you see from the window of your house in your future?
未来のあなたが住んでいる家の窓から、何が見える?

3. What would you cook when you invite your friends to dinner in your future?
未来のあなたが友だちを夕食に招いたら、何をつくる?

4. Who is sleeping beside you? (Anything else besides a human being is okay)
未来のあなたの隣に寝ている人はだれ?(人間以外も OK)

5. Who lives next door to you?
未来のあなたのおとなりに住んでいる人はだれ?

6. You are leaving something precious as a bequest to someone important. What is it?
あなたがあなたの大切な人に遺したいものは何?

7. What would you like to have forgiven in your future?
未来のあなたが許したことは何?

8. If you look back over your life in the future, what do you think you might regret?
未来のあなたが人生を振り返った時、後悔するかもしれないことは何?

9. What time is your most favorite time of day in your future life?
未来のあなたが一日の中で一番好きな時間はいつ?

10. You’ve received a gift from yourself of the future. What have you received?
未来のあなたから今のあなたへギフトが届きました。何を受け取った?

***

_55A1054

_55A0905

答えを書いたら、いよいよコーヒーブレイク。事前に段取りやコーヒーの作り方はMariaとKei君に伝えてあったが、手際よくコーヒーとクッキーを用意してくれていてばっちりだった。Mariaに、これが一番有名だからと勧められて選んだクッキーバスケットは中身もどれも美味しかった。劇場いっぱいにコーヒーのいい香りが漂って、質問の答をお互いにシェアしているみんなもリラックスした表情。簡単だがコーヒーの背景であるコーディリエラの森林破壊の話も少し説明させてもらった。当初は「安いスティックコーヒーでいいんじゃないか」と言われたけど、やっぱり眞理子さんたちのコーヒーにしてよかった。

私は影絵づくりのサポートはほとんど役に立たないので、各グループを回って声をかけたり、話を聞いたりして回っていた。ACAYもパヤタスも事前に知り合っていたので名前もわかるし、みんな嬉しそうに「こんな答えを書いたの」とか「これのパペットを作ってるの」と教えてくれる。その答えがまたいちいち美しくて、なんだか泣けた。パヤタスのヴィッキーさんは、「未来のあなたが友だちを夕食に招いたら、何をつくる?」という質問に対して、野菜たっぷりの料理をつくるとたくさんの野菜の形を切り抜いていた。大井さんからはあとで、ネスさんが自分の影絵が映しだされた時「ganda ganda(きれいきれい)キャーッ」と興奮して感激していた、と教えてもらった。

_55A1002

_55A1073

日本人のアーティストが何人か入ってくれたことも、「普段は交わらないいろいろなコミュニティの人が混じる」という点でとてもよかった。西尾さんのグループでは、彼女が日本から来た劇作家というのでメンバーの女の子が大興奮だったらしい。ペピンの中澤くんはグループを盛り上げていたし、下田くんは、自分のイメージにこだわりすぎるあまり時間内に全然作業が終わらないACAYの(ちょっと難しい)男の子に彼らしい忍耐強さで付き合っていた。

みんなきっとこんなことやるのは初めてで、だから「あと5分」といってもちっとも時間内に終わらなくて、がんがん時間は押していたけど、シェアリングにも影絵づくりにもリラックスしながら集中しているのが伝わってきた。

午後5時半、ショーの開場時間。「観客」は2階に案内してクッキーとコーヒーでもてなしながら(フィリピンでは葬式を連想させる)、バルコニーからリハーサルを見てもらった。影絵そのものではなく「自分たち自身についての影絵をつくり、演じる人々」がパフォーマーであり、作品として提示したかったから。

そして時間になると花売りたちが、なんと家族づれでやってきた。約束を守ってくれたことが嬉しかった。小さな赤ちゃん連れの若いお母さんには、彼女の手から観客に花を配ってもらった。100ピースを400ペソで買うと言ってあったのに大量の花を持ってきたのにはまいったが、明日の分として一部購入し、JKも購入すると申し出てくれたので買い取ることができた。最初は彼らも緊張した顔でクッキーをたくさん取ったり、小さな男の子は会場の中でもこわばった顔で花を売ろうとし続けていた。でもだんだんとリラックスし始め、「よかったら影絵に参加して!」と声をかけると、パペットづくりに参加してくれた。

_55A1258

_55A1163

_55A1185

リハーサルは難航した。私は劇作家として戯曲を書き、影絵の上演=Aninoの領域だと考えていたのだが、演出について責任の所在があいまいだった。私が戯曲上で提案したのは「グループごとに各パペットを組み合わせて小さな物語(narrative)をつくり、スクリーンの中を時計回りに移動しながら演じることで“回転灯籠”をつくり出す」という演出だったが、これを参加者に伝えて動いてもらうのに難儀した。
ちなみにショーは3つのパートに分けた。

1)SELF-Pの影絵(参加者がスクリーン内部を移動しながら演じる)
2)走馬灯の影絵(観客がスクリーン外部を歩きながら観る)
3)参加者が観客にパペットを渡し、スクリーンの内外を行き来しながら影絵を演じたり見たりする

これが大きな物語の流れで、葬式の演出と相まって、見ようによってはこれから死んでいく誰かの走馬灯に見えるかもしれない。その中に各グループ/各参加者の思い描く未来=SOMATOという小さな物語が入れ子構造で散りばめられている。これが今回、私がやろうとした物語の構造だった。

_55A1237

_55A1236

_55A1204

リハーサルを始めるまでに時間がかかりすぎたので、あくまで流れと動きだけを確認して本番に突入。この時点で英語、タガログ語、日本語が飛び交う会場はものすごい熱気。スクリーンの中は動くのも大変なくらい暑かったと思う。

ショー自体は客観的に見て、完成度はあまり高くなかっただろう。影絵に不慣れな人たちで、パペットは作れても、どんな風に演じるかという引き出しは(私の中にも)ほとんどない。Aninoの他のメンバーがいないなか、TetaとHazelはすごくよくやってくれたと思う。それに忘れていたけど、彼らはもともとビジュアルアーティストで、パフォーマンスが専門ではないのだった。翌日は俳優のAndrewが来るので期待できそう。

_55A1284

_55A1030

_55A1027

_55A1021

それでも、いろいろなコミュニティの人たちが入り混じって影絵を演じ、ひとつの上演をつくり上げていく姿は力強かった。観客の中には、影絵づくりには参加できなかったACAYの女の子たちもたくさんいて、仲間の奮闘に拍手や歓声(というのはあまりに無遠慮なツッコミやあれこれ)を送っていた。ACAYの女の子や男の子たちも、パヤタスの女性たちも、興奮冷めやらぬ笑顔で帰っていった。今日のできごとが忘れがたい記憶として残るのなら、彼女ら彼らの人生が少しだけ変わるかもしれないし、フィリピンの演劇の未来も少しだけ変わるかもしれない。そしてそれは外から与えられた変化ではなくて、彼ら自身が選べる変化なのかもしれない。かもしれないかもしれない、くらいなのだけど、それに賭けることしかできない。最初から最後まで立ち会ってくれたちからさんが、終演後、握手をしてくれたのが嬉しかった。

_55A1275

みんなが帰った劇場で、疲れた顔のTetaに「どうだった?」と声をかけた。「いろいろあったけど最初の実験だったし、とにかく私たちはやりきったよ」と笑顔を見せてくれて少し安心した。明日に備えてリハーサルの流れと動きの整理をし、解散。

終演後はペピンが別のショーを見ている間、TassosとDavidと軽く食事。Tassosから前向きなコメントをもらったが彼の英語があまり聞き取れない(フィリピンの人たちも彼のアクセントは聞き取りづらいらしい…)私は褒めてもらってる雰囲気しかわからなかった。残念。いったんホテルに戻り、シャワーを浴びてFlying Houseへ。先に飲んでいたペピンとりっきーと合流した。お互いに自分のプロジェクトで忙しかったので、りっきーと話すのも本当に久しぶり。

せっかくペピンが来ているのに、なんだか私は不機嫌で、いらいらしていた。まだ本番が終わってなくて気が立っていたのもあるし、今日は朝からかなりストレスが溜まっていたのもあるし、どちらかといえば「できたこと」より「できなかったこと」に目が行きやすいタイプなので、もう頭の半分くらいは今年の反省と来年のKARNABALに向けてやり直したいことでいっぱいだった。でもりっきーと里見くんが仲良しなのと、ペピンの人たちは康太くんも含め穏やかでたいへん出来た人たちなので、和気あいあいと夜は更けていった。

13323813_10209774578189126_1060050042312732160_o(photo by Chikara Fujiwara 藤原ちから)

“フィリピン日記 20160603・本番編” への1件のフィードバック

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です